祖母へ 30代 大阪府 第13回 入賞

笑顔が置き土産
内田 直美 様 37歳

 おばあちゃん。うーん、やっぱりいつもの呼び方にするわね。おばばが亡くなってからもう八年です。あれからいろんな人のお葬式に行ったけど、笑ったお葬式は、おばばのお葬式しかありません。悲しみの涙か笑い涙かわからない、あんなお葬式は親戚一同初めてだったんじゃないかな。

いつも周りの人を笑わせていたおばば。いや、笑わせていたというよりも、笑われていたのかな。生まれる時代と場所が違えば、今頃は吉本新喜劇で「姐(ねえ)さん」と呼ばれていたに違いないと近所の人に言われるおばばだから、やっぱり笑わせていたんだよね。

病院で冷たくなって家に帰ってきたおばばの顔はいつもより美人だった。いつもは口紅もしなかったのに綺麗に死に化粧をしてもらって、なんだか若く見えたよ。

そこに登場したのがあなたの姉、伯祖母(おおおば)。おばばと顔はそっくりなのに、生真面目な伯祖母がやってきて最初にしたことがあなたの顔をティッシュで拭くこと。「何か汚れとる」と言いながら、せっかく塗ってもらったファンデーションを拭いちゃった。

読経の最中に、お坊さんよりも大きな声でお経を読んでいるのに全然違う宗派のお経を読んだり、火葬の前には「熱いから頑張れ!」、骨上げの時には「金歯はないの? あれば持って帰るよ」って言ったり。

あれれ、いつもの伯祖母じゃないみたい。これはおばばじゃない? 亡くなったのは伯祖母で、生きているのはおばば?

一族を大混乱に陥れたあなたのお葬式は、今でもみんなが集まるたびに話題にのぼります。お葬式の後、伯祖母はいつもの生真面目に戻っていたから、みんなはおばばが伯祖母の体を借りて、最後にみんなを笑わせてくれたんじゃないかなって言ってるよ。

おばば、あなたは人を楽しませる天才でした。そんな天才の孫である私も、あなたのように周りの人を笑顔にできる人間になれるよう頑張るね。

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