祖父へ 20代 東京都 第8回 佳作

おじいちゃんのスーツ
城戸 楓花 様 23歳

 私のおじいちゃんは、いつも笑えるくらいみすぼらしい服装をしていた。決して、生活に困っていた訳じゃないのに。

自宅で中小企業診断士や行政書士として、タンクトップ一枚で仕事する後ろ姿を毎日見ていた私。小さい頃から、その姿が不思議で不思議で仕方なかった。

趣味はとにかく仕事だけ、ものや服なんていらず最低限でいい、とその一点張りで。家族からは、「たまにはちゃんとした服を着ぃや」と散々言われていた。

お葬式の日、安らかに眠るおじいちゃんは見たこともない青の光沢の入った、かっこいい綺麗なスーツを着ていた。私はびっくりして、おばあちゃんに聞いた。「おじい、こんなスーツ持ってたん?」「一着だけなぁ、よそ行きに一応持ってたんやで。一回くらいしか着てないんちゃうかな。じいちゃん、最後くらいかっこよくしていこな」。

私は和室のある写真がふと目に入り、その瞬間、訳もわからないくらい涙が溢(あふ)れ出た。中学校の入学式で、桜が満開の正門前でおじいちゃんと二人で撮った一枚。そこには、この青のかっこいいスーツを着たおじいちゃんが写っていた。

いつも、どんな時でも着飾らないおじいちゃんが……。私が一生懸命、受験勉強して入った中学校の入学式でこのスーツを着て以来、二度目に着たのは天国へ旅立つ今。どれだけ自分が愛されていたのか、痛いほどに感じた。

私は知っている。おじいちゃんはただ、面倒なだけでおしゃれをしなかった訳じゃないと。心も身体も着飾らずに、相手と接することで人との繋がりが深く生まれると信じていたことを。

亡くなる三日前まで、ベッドの上で白の肌着一枚で仕事をしていたおじいちゃん。

時間が経つにつれ、私、やっと気が付いたよ。おじいちゃんは仕事が好きだったんじゃなく、誰かのために生きることが一番の幸せだったんだよね。その想いはきっと、きっと、今も沢山の人の心に届いているからね。

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