祖父へ 20代 香川県 第10回 佳作

じいちゃんへ。ばあちゃんには内緒です。
飯沼 花織 様 29歳

 じいちゃん、久しぶり。実はじいちゃんにこっそり教えていことがあって、手紙を書いています。

手紙なんて子供の時以来だね。じいちゃんを思い出すと真っ先に出てくるのは、じいちゃんが勤めていた自動車学校と、敷地の片隅にある土手一帯に生えているつくしです。私がまだ小学生だった頃、春に毎年連れていってくれるつくし採りが一番の楽しみだった。採ったつくしはばあちゃんがおひたしや卵とじにしてくれたね。子供の私はお浸しが嫌いで、卵とじの方ばかり食べていたことを覚えています。

じいちゃん。こんな私にも、一緒に将来を考える相手ができました。その話の流れで、ばあちゃんにじいちゃんとのなれそめを聞く機会があったんだ。

じいちゃんは通学バスの運転手で、ばあちゃんはそのバスに毎日乗る女学生だった。じいちゃんはばあちゃんに一目ぼれして、ある春の日、バスを降りようとするばあちゃんを引き留めてラブレターを渡したって。うーん、やるねぇじいちゃん。

昔はばあちゃんがすごく気が強くて、じいちゃんを尻に敷いているようだったけど、じいちゃんがいなくなってからのばあちゃんは物静かになったというか、しおらしくなったというか。昔のばあちゃんのあの気の強さは、いわゆる照れ隠しってやつだったんだよ、多分ね。

ばあちゃんね、じいちゃんとのなれそめを話すときに、恥ずかしそうに、今も女学生みたいな顔して話すんだ。じいちゃんの前では絶対言わなかったけど、ホントはばあちゃんはじいちゃんに負けないくらい、じいちゃんのこと大好きだったんだよ。じいちゃんがこっちにいるときにももっと素直になってればよかったのにね。

じいちゃん、私も二人みたいにお互いを想い合える夫婦になれるかなぁ。私もばあちゃんに似て意地っ張りだからなぁ。

私も大人になって、つくしのお浸しも食べられるようになったよ。話したいことが沢山あるよ。

じいちゃん。たまにはばあちゃんの顔、見に来てやってね。

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