父へ 60代 愛知県 第9回 入賞

命日の味ご飯
杉浦 美紀 様 63歳

 空が青く高くなると、またお父さんの命日がやってきます。久しぶりに、お父さんの好きだった「味ご飯」を炊こうと思います。
ガレージわきの花壇に、ポコポコと顔を出しはじめた茗荷を摘み取って、具材の一つにするのもいいかもしれません。もちろん、ササガキ牛蒡や鶏肉、椎茸もちゃんと入れますからね。
思い起こせば、とにかくお父さんは味ご飯の信奉者でした。「味ご飯は、これ一つで栄養たっぷりや」とか「冷めてもうまいで弁当にぴったりや」「お茶漬けが、またうまい」など、泉のように湧き出る味ご飯賛歌を幾たび聞かされたことでしょう。
この教育効果は絶大で、いつの間にか私も味ご飯党になりました。お父さん好みの具材はマニフェストとして受け継いでいますが、新しい党員としては、銀杏や蕗(ふき)、わらびなど、旬の味わいを投入して変化をつけたいところです。
お父さん。あなたが不治の病に見舞われ、63歳の若さで亡くなった時、あなたを救うすべを見つけられなかった無力さに打ちひしがれました。昼ご飯も取らずに通夜を終え、居間のソファに腰かけたままの私に、一回り顔の小さくなったお母さんが「なんか食べんと」と言いました。「味ご飯があるんやわ」。一昨日、あなたが突然、味ご飯が食べたいと言いだし、茶碗に半分ほど食べた。その残りが冷蔵庫に入っているのだと。
熱いお茶をかけて食べました。なかったはずの食欲が、懐かしい味と香りに呼び覚まされ、ああ美味しいと感動すら覚えました。親が亡くなったというのにご飯が美味しいなんて、と思ったとたんに涙がボロボロとこぼれ、嗚咽(おえつ)しながら、それでも残さず食しました。
あれから28年。この春、お母さんがあなたのもとに旅立ちました。お母さんは毎年、お父さんの命日には味ご飯を炊き、仏壇に供えていました。これからは、私が二人にお供えします。私の味ご飯もなかなかのものですよ。どうぞ安心してください、お父さん。

 

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