父へ 30代 千葉県 第13回 入賞

こんな息子でしたが……
森 惇 様 37歳

 父ちゃんがいなくなって二年半が経つね。まだ夢で逢っても、「良かった。元気になったんだ!」と言ってしまいます。心が受け入れられてないんだね。

生前、特に晩年は本当に迷惑をかけてしまったね。僕が原因不明の闘病となってから、父ちゃんにずっと八つ当たりしたね。黙って聞き続けてくれた父ちゃんは、器が大きかった人なのだと今ならわかります。本当は言いたいこと沢山あっただろうに……。甘えてごめん。

正直に言えば、自分が原因不明の病気という現実を受け入れられませんでした。「なぜ? どうして?」という気持ちがずっとありました。だから、生涯現役で働く父ちゃんが羨(うらや)ましかったんです。

いつか、父ちゃんが仕事で海外に行き、メールで海辺の画像を送ってくれたね。「外に出られない人の気持ちがわかりますか?」と返信したけど、「惇がリラックスできるかも」と思って送ってくれたことを、最近母から教えてもらいました。自分の視点からしか見えなくて、本当にごめん。

そんな羨ましいほど元気だった父ちゃんが突然倒れ、まさか天国へ逝ってしまうとは想像もできませんでした。ずっと病気知らずだったから、絶対に治ると信じてました。

もう最後かもしれないという時、声を振り絞って「すまなかった」と涙した父ちゃんが忘れられません。初めて、父ちゃんの涙を見ました。「気にしないで」と一緒に泣くことしかできなかったけど、「すまなかった」のは僕の方だよ。

父ちゃんと一緒に闘病している時間は少しだけだったね。でもその時、僕が人生に辛くなって、「こんな形で生きることにどんな意味があるんだろう」と聞いたら、「きっと、何か意味があるんだよ」と励ましてくれた父ちゃんの言葉が忘れられません。辛くなる度(たび)に、今も励まされてます。僕も父ちゃんの言葉を胸に、少しずつだけど、自分の人生を受け入れて、前を向いていくから。

だから父ちゃん、これからもずっと見守っていてね。こんな息子でしたが、愛してくれてありがとう。

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