「金婚式は盛大にやろう。俺たちで三代出来るのだ。我が家は長寿の家系だから」と、あなたはいっていたのに。
私たちは金婚式は出来ませんでした。
あなたが胃ガンで亡くなったのは雪の降る日でした。くしくも四十九日の法要が三月八日。私たちの四十九回目の結婚記念日でした。
もし金婚式が出来たなら、あなたは挨拶で「三人の子供を育ててくれてありがとう。酒飲みの俺によく五十年間つき合ってくれました。又生まれ変ってもお前を妻にするつもりだから、今後共よろしくね」といってくれたでしょう。
「生れ変っても妻にしてくれる」という言葉は何度いわれたことでしょう。私はその度に「お断りします」と即答していました。あなたは「やっぱり駄目か」と笑っておりました。
私は二十一歳で兼業農家の大家族に嫁ぎました。
慣れない農業に戸惑う私に、あなたは「男は辛抱。女は思いやり」といいました。
「その言葉反対で、男は思いやり、女は辛抱でしょ」といい返すと、「俺がいつも辛抱しているから、うまくいっているんだわ」といっていました。
そんな日々の積み重ねで四十九年間暮らして来ました。平凡だけど心安らかに暮らさせてもらえたのは、あなたの辛抱と思いやりがあったからこそだと思って感謝しております。
金婚式でいってくれるはずだった、二度目のプロポーズ、つつしんでお受けいたしたいと思います。ありがとうございます。
次の人生は、お酒とタバコは程々にして下さいね。そして私より一日でいいから長く生きて下さい。この広い農地と家を守っていくのに一人では荷が重すぎます。