母さん、別れてから四十年になるけど、そっちにいっても「四つ葉のクローバー」を探しているの。
こっちにいた時も探していたよね。手術をして、自宅で養生していた時、庭の隅で毎日、腰をかがめて探していたのを見ていたよ。最初は、何を探しているのかわからなかったので「そんな体力をつかうことをしないで、部屋で寝ていればいいのに」と、何も考えずに言ってしまって、ごめんなさい。そのころ、母さんの病気のことは、何も知らなかったのです。
あとで、父さんから聞いて驚いた。母さんの病気は、末期の胃癌だったことを初めて知りました。母さんは、自分の「幸せ」のために「四つ葉のクローバー」を探していたのだと、思っていたけど、そうじゃなくて、私たちのために探していたのですね。遺品の中に「四つ葉のクローバー」の押し花と「幸せにね」と書いてあった手紙をみて泣いてしまいました。
母さんが手術する前、彼女と結婚することを話したよね。ベッドの上でニコニコしながら「それはよかった。とにかく二人で仲良くしていれば、どんな困難も乗り切れるからね」と、励ましてくれたよね。
おかげさまで、私たち夫婦も二人の男の子供を授かりました。母さんの孫は元気に育ち、毎日会社に通っています。息子たちは学生時代、勉強をしなかったけど、これは親に似てしかたがありません。でも、「母の日」や「父の日」や誕生日を覚えていて、必ずプレゼントを送ってくれます。この気遣いは、きっと、おばあちゃんの遺伝子だねと、妻は話をしています。
こんな孫たちの写真を母さんの位牌の前に置いておくから、よく見てね。
先日、散歩をしていたら、道端にクローバーの群生がありました。三十分かけて、ようやく「四つ葉のクローバー」を探しました。
こんどは、母さんに差し上げます。そっちでも「幸せ」になってね。